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復活

シュテンツ&N響でマーラーの「復活」を聴く(11月12日)。ヴァイオリンは対向配置、ティンパニ&パーカッションも左右に分かれる。冒頭からひきずっていくようなフレージング、リタルダンドするところでは思いっきりためる、ドラマチックな演奏。鳴らすところは思いっきり鳴らし(NHKホール3階の席がフォルテシモで振動するのを感じたのは初めて)、抑えるところはぐっと抑えて弦の弱音の美しい響きを聴かせるなど、シュテンツはなかなかの演出巧者。その意図に十分応えているN響も、技術的なレヴェルが高い。

もちろん、こういう演奏を「あざとい」と思ってしまう向きはあるだろう。しかし、そもそもこの曲自体がそういうケレン味や音響的実験性を志向しているので、こういう解釈は決して間違っていないと私は思う。たとえキリスト教の信仰がない聴き手にも、最後には強いカタルシスを感じさせるように作られているのがこの曲だ。僕がこの曲を聴くときは「音楽の力でもっていってほしい」と思って積極的に身を委ねるので、最後のクライマックスではいつも目頭が熱くなる。そういう聴き方をしないと楽しくない曲だ。というか、音楽ってそういうものではないか?

クラシック・ファンが大好きな、指揮者がどうのとか、オケがどうのとかいう蘊蓄は、最近の僕にはもうどうでもいい。そういうおしゃべりは楽しいけれど、つまるところ「良い趣味」の誇示であり、知識のひけらかしに過ぎない。そうではなくて、ひとつひとつの演奏会に「良い音楽」を求め、そのためにはスコアも読んで勉強していき、積極的に音に向き合って心で感じ取ろうと努力すること。そして何を感じたかを言葉にすること。大事なのはそれだけだ。

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Covered Beatles (16) Past Masters Volume Two 編

「ビートルズのオリジナル・ソングを全曲違う人のカヴァー・ヴァージョンで集めることができるか?」という問いに答えるべく始めた Covered Beatles 。ついに最終回に到達しました。去年の3月に書き始めたので、1年半とちょっと。途中ブランクもはさみつつ、ビートルズ・カヴァーの深い森を歩み続けてきました。いやー長かった。ちょうどリマスター盤がリリースされた時期と重なったので、検索ワードでひっかかって通りすがりにのぞいてくださった方も多かったのではないかと思います。最後の1枚は後期のアルバム未収録曲・別ヴァージョンを集めた「Past Masters Volume Two」。「Volume One」のときと同じく、別ヴァージョンが収められている曲は、オリジナル盤の時に紹介したのとは別のカヴァーを選んでいきます。

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1) Day Tripper / Otis Redding (from"Dictionary of Soul"1966)
魅力的なギター・リフのせいか、カヴァー・ヴァージョンの多い曲です。サンバでノリノリのセルジオ・メンデス、BBCセッションで自由奔放に弾きまくるジミ・ヘンドリックス、YMOのテクノ・カヴァーなんていうのもありました。しかしやっぱりこの曲のカヴァーといえばオーティス・レディング。オーティスにとっては同時代のヒット曲ですが、完全に自分の音楽にしてしまっているところが凄い。「イン・ヨーロッパ」のライヴ・ヴァージョンも盛り上がっていて、聴きごたえがあります。

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2) We Can Work It Out / Stevie Wonder (from"Signed, Sealed & Delivered"1970)
これもカヴァー・ヴァージョンの多い1曲。メジャーのヴァースとマイナーの中間部の対比が見事で、カヴァーしがいのある曲だからでしょうか。タイトなリズムで躍動感ある80'sポップにリメイクしたチャカ・カーン、ブルージーかつソウルフルな演奏で大変身させたハンブル・パイなども好きですが、この曲のカヴァーとしては大ヒットしたスティーヴィー・ワンダーのヴァージョンは外せません。これまた完全にスティーヴィーの世界。間奏のハーモニカも最高です。

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3) Paperback Writer / Tempest (from"Living In Fear"1974)
この曲のカヴァーとして代表的なものですが、これを超えるカヴァーがなかなか出てきません。アラン・ホールズワースがいたジャズ・ロック・バンドとして有名なテンペスト。これはホールズワース脱退後のセカンド・アルバムで、バンドの中心人物であるドラマーのジョン・ハイズマンによる手数の多いプレイが堪能できます。解釈としてはがっちりとしたハード・ロック的演奏というべきでしょうか。この他のヴァージョンとしては、まったく無名の人ですがアリソン・ソロのカヴァーが、テンペストをさらに進化させたヘヴィ・メタル的解釈でなかなかでした("It was 40 Years Ago: A Tribute To The Beatles"2004 に収録)。

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4) Rain / Todd Rundgren (from"Faithful"1976)
これまでの Covered Beatles の選曲からおわかりの通り、私はいわゆる「完コピ」系の演奏はあまり好みません。ビートルズそっくりの演奏を聴いても面白くもなんともないし(それならビートルズのオリジナルを聴いていた方がよっぽどいい)、各人がそれぞれの曲でどのような個性を表現しているのかを楽しみたいのです。もちろん個性ばっかり強調しすぎると、どうしてビートルズの曲をやっているのかよくわからなくなってしまうので、そのあたりの匙加減がアーティストの腕の見せ所ということになります。さて、前置きが長くなりましたが、トッドのこのカヴァーは(同じアルバムに収められている「Strawberry Fields Forever」同様)かなり徹底的な完コピです。しかしながら、このアルバムにおけるトッドのカヴァーはどこかで取り上げたいと考えていました。それは、この完コピには「思想」があるからです。すなわち、トッドというオリジナリティの塊のような人が偏執狂的に完コピすることによって、そこからどうしようもなく滲み出てしまう「個性」を感じることができるのです。もちろんこれはトッドだからできることであって、あまたある凡庸なコピー・バンドの完コピとは全く次元の違う話ですので、お間違えなきよう。最後に「She Said She Said」が入ってくるところもセンス抜群です。他の人のヴァージョンでは、サイケデリック的要素は完全に捨て去ってブルーズ・ロックにしているハンブル・パイや、ノスタルジックな感情に満たされたエド・ハーコートが気に入っています。

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5) Lady Madonna / Caetano Veloso (from"Qualquer Coisa"1975)
この曲の一番楽しいカヴァーは、もちろんファッツ・ドミノによる「先祖返り」ヴァージョンですが、同じパターンはもう「Lovely Rita」でやってしまっているので、ここではカエターノ・ヴェローゾを選曲してみましょう。名盤「クアルケル・コイザ」後半のクライマックス、ビートルズ・カヴァー3連発の最後がこれです。アコースティック・ギターの弾き語りによるリラックスしたブラジリアン・テイストのカヴァー。さらっと弾いていますが、実に新鮮です。ちなみに、このアルバムのジャケットはもちろん「Let It Be」を意識しています。

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6) The Inner Light / Schola Musica (from"The Beatles Gregorian Songbook: The Liverpool Manuscripts"2005)
「リヴァプール郊外にある修道院で、中世のグレゴリオ聖歌の写本が発見された。驚くべきことに、そこにはビートルズの曲や詞と極めて似た内容の聖歌が書き記されていたのだ…」という手の込んだ解説が入った、グレゴリオ聖歌のスタイルによるビートルズ・カヴァー集より。解説によると、なんでもこれらの聖歌は当時その修道院にいたジョン師、ポール師、ジョージ修道僧によって作られたもの。その中でもジョージ修道僧は異教に魅せられてインドにまで足を運び、仏教やヒンズー教の影響を受けた聖歌をたくさん書いたので、修道院長に異端として幽閉されてしまったんだとか。その「異端の聖歌」のひとつがこの「The Inner Light」。グレゴリアン・チャントのイメージ通りのソレム唱法が、この曲のインドっぽい旋律とマッチしているところがなかなか面白い。瞑想的な雰囲気において洋の東西が合一している感じです。

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7) Hey Jude / Wilson Pickett (from"Hey Jude"1969)
超有名曲だけに、ビング・クロスビーからダイアナ・キングに至るまで大量のカヴァー・ヴァージョンが存在します。曲自体にゴスペル的な要素があるので、やはりソウル/ジャズ系の演奏が光っている印象。その中でも決定版はやっぱりこのウィルソン・ピケットでしょう。これぞサザン・ソウル。前半は抑えながらも、ホーン・セクションが盛り上がる後半では大爆発してシャウト!ほとんどウィルソン・ピケットのために書かれた曲のように聴こえてしまいます。ちなみに、この演奏に参加しているグレッグ・オールマンがこの曲をすすめたとか。

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8) Revolution / Thompson Twins (from"Here's To Future Days"1985)
この曲のカヴァーについて書籍やネットに書かれている意見を読むと、なぜかこのトンプソン・ツインズによるヴァージョンはあまり人気がないようです。うーんなぜでしょう、私は大好きです。リアルタイムで聴いていたということもあるのですが、とにかくラウドなギター・サウンドが素晴らしい。弾いているのは、当時ビリー・アイドルのバンドにいたスティーヴ・スティーヴンス(ライヴ・エイドでも弾いてました)。確かに、この曲にもともとあったメッセージ性みたいなものはかけらも感じられないのですが、このシングルにおける攻撃的なギター・サウンドに着目したカヴァーということでもっと評価されてもよいと思います。もうひとつ、ジュールス・ホーランドのビッグ・バンドをバックにステレオフォニックスが演奏するグルーヴィーなカヴァーも最高。ついでに注意。ニーナ・シモンがこの曲をカヴァーしているという記述を時々見かけますが、あれは「とってもよく似ている別の曲」です(ウェルドン・アーヴィンとの共作)。そしてそれも名曲。

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9) Get Back / Amen Corner (from 7"single "Get Back / Farewll To The Real Magnificent Seven"1969)
「Get Back」のカヴァーも山ほどあります。「Let It Be」ではアルバムのラストということで寂寥感のあるロッド・スチュワートを入れましたが、演奏としてはアイク&ティナ・ターナーのヴァージョンの方がカッコいいかもしれません。ファンキーなアル・グリーンも素晴らしい。しかし両者とも既出なので、ここではエイメン・コーナーのヴァージョンを紹介しましょう。イギリスはウェールズ出身のロックバンドですが、R&Bに強く影響されたソウルフルな演奏が特徴で、何も知らずに聴いたら黒人のグループだと思うでしょう。

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10) Don't Let Me Down / Gene (from"To See The Lights"1996)
ブリットポップ時代を駆け抜けたバンドの、初期のシングルB面や未発表ヴァージョンを収めたコンピレーションの中に入っているカヴァーで、ラジオ・セッションでのスタジオ・ライヴです。ゴツゴツとしたバンド・サウンドとヴォーカル(モリッシーに似ているとよく言われた)の魅力で、凡庸なカヴァーから頭ひとつ抜け出した感があります。この曲のカヴァー・ヴァージョンで私が大好きなのはポール・ウェラー。女声コーラス入りでソウルの感覚を前面に押し出した演奏でした。

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11) The Ballad of John and Yoko / Kevin Watson (from"FestivaLink presents: YarmonyGrass 2007 Vo.1"2007)
曲の内容が内容だけに、カヴァーはあまり多くありません。初期のティーンエイジ・ファンクラブによる貴重なカヴァー・ヴァージョンがありますが、彼らにしてはいまいちひねりがなく、面白みに欠けます。ちょっと目先を変えて選んでみたのがこちら。私もあまり詳しくないのですが、アメリカにはヤーモニーグラスというフェスティヴァルがありまして、毎年コロラド州の川のほとりにみんなで集まって自然を楽しんだりバーベキューをしたりジャムバンドの演奏を聴いたりするらしいです。その2007年のライヴ録音の中で、ケヴィン・ワトソンというあまり有名ではないシンガーがギター一本の弾き語りでこの曲をやっています。これがなかなか新鮮で面白い。エンディングも洒落ているし、悪くないです。

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12) Old Brown Shoe / Leslie West (from"Songs from The Material World: A Tribute To The George Harrison"2003)
シングルB面ながらジョージの傑作のひとつに数えられるこの作品を、元マウンテンのレスリー・ウエストがカヴァーしています。のっけからスライド・ギターをギュインギュイン弾きまくって、原曲とは全然違う泥臭いサザン・ロックにしてしまっているので口あんぐり。最初聴いたときは何の曲かまったくわかりませんでした。でも、ジョージはビートルズ後、クラプトンなどと一緒にサザン・ロックにも関与していくので、こういう解釈もアリでしょう。豪快なスライド・ギターに酔いしれるパワフルなカヴァーです。

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13) Across The Universe / David Bowie (from"Young Americans"1975)
「Let It Be」ではさらっとしたフィオナ・アップルのヴァージョンを選んだので、対照的にこちらではアクの強いデヴィッド・ボウイのヴァージョンを。このカヴァーにはジョン・レノンがこの曲に込めた瞑想的なニュアンスはどこにもなく、ひたすらボウイが熱唱します。やたらと力が入った後半のシャウトも聴きもの。「Let It Be」のところでも書きましたが、ルーファス・ウェインライトのカヴァーも好きです。

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14) Let It Be / Gladys Knight & The Pips (from"If I Were Your Woman"1970)
ゴスペル・フィーリングに溢れる曲。だからこそオリジナル盤のときはアレサ・フランクリンを選んだのですが、このグラディス・ナイト&ザ・ピップスのヴァージョンも素晴らしい。他のソウル・シンガーのヴァージョンに比べると粘っこさは抑えて、よりポップ感のあるバラードとして歌っています。ついでにもうひとつ。ビートルズの「Let It Be」はアルバム・ヴァージョンとシングル・ヴァージョンでギター・ソロが全く違いますが、このグラディス・ナイトのヴァージョンはちゃんと「Past Masters」と同じく、シングル・ヴァージョンのギター・ソロのメロディを弾いています。そういえば、歌詞を自分流に変えてしまったアイク&ティナ・ターナーのカヴァーもありました。

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15) Dis-moi je t'aime, dis-le, dis-le moi (You Know My Name) / Gerard Saint Paul (from"10 hits de Lennon & McCartney"1970)
この最後の曲が、ビートルズの全オリジナル・ソングの中で最もカヴァーを探しにくい曲だと思います。こんなふざけた曲をカヴァーしている人が本当にいるんでしょうか。いるんです。フランスのジェラール・サン・ポール。わけのわからないカヴァーです。タイトルからして「You Know My Name」の訳ではないし、内容もフランス語と英語のチャンポン。だいたい「レノン&マッカートニーの10のヒット曲」というアルバムでこの曲を選ぶ意図がよくわかりません。このシュールで馬鹿馬鹿しいセンスが、まさにこの曲の本質を突いていると思います。抱腹絶倒の名(迷?)カヴァーです。

さて、ついに終わりました。「ビートルズのオリジナル・ソングは、全曲違う人のカヴァーで集めることができる」。無事に証明することができました。

でも私はまだ、あの曲はあのヴァージョンの方がよかったかなあとか、あれとあれは入れ替えた方が良かったかなあとか、いろいろ考えてしまっています。どうやら自分が思った以上にビートルズ・カヴァーの森に深く入り込んでしまっているようです。良さそうなカヴァーがあったらまだまだ聴いてみたいと思っているので、どうやらまだしばらくこの森からは抜けられそうにありません。

もし、この Covered Beatles を全部読んで下さった奇特な方がいらっしゃいましたら、ぜひご意見を頂けるとうれしく思います(ひとりのビートルズ・ファンとして)。そしてぜひ、あなたにとって大切なビートルズのカヴァーを教えてください。よろしくお願いします。

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Covered Beatles (15) Let It Be 編

再開した Covered Beatles の先を急ぎましょう。ついにラスト・アルバム(発売順では)の「Let It Be」の登場です。このアルバムは同名映画のサントラであり、内容は未発表に終わった「Get Back」セッションの記録をまとめたものなので、作品としての統一感はあまりないのですが、晩期ビートルズの姿をありのままに映し出している点で貴重です。カヴァー意欲をそそる名曲も多し。

I_am_sam







1) Two Of Us / Aimee Mann & Michael Penn (from orginal soundtrack "I Am Sam"2001)

オリジナルではジョンとポールがデュエットするこの曲(映画では1本のマイクをふたりで分け合って歌うシーンが感動的)を、ビートルズ・カヴァー好きには外せない「アイ・アム・サム」のサントラより。選曲のポイントはズバリ、エイミー・マンとマイケル・ペンのおしどり夫婦が歌っていること。誰もがオリジナルの演奏にジョンとポールの関係を聴いてしまうように(本当はポールとリンダのことらしいのですが)、この曲の場合どんなふたりが歌っているのかということが結構大事なのではないかと思います。このカップルの精神的な結びつきを感じられるこのカヴァー、何度聴いても気持ち良い。そういう意味では、同じサントラに入ってるニール&リアム・フィンの父子デュオも好きです。

Live






2) Dig A Pony / Screaming Headless Torsos (from"Live"2002)
このカヴァーを itunes で発見した時には、こんなマニアックなバンドの曲がネット上に出回っていて大丈夫なのかと心配してしまいました。変態系ギタリストとして有名なデヴィッド・フュージンスキー(フューズ)率いる変態系ファンク・バンドの1996年ニューヨークでのライヴを収録したアルバムより。変態系ヴォーカリストのディーン・ボウマンもノリノリの絶好調、フューズも弾きまくりです。このジョンのお遊び的な感覚のワルツがこんなかっこいいファンク・チューンに生まれ変わるなんて、脱帽です。そういえば原曲もルーフ・トップ・セッションのライヴでした。

Pleasantville






3) Across The Universe / Fiona Apple (from original soundtrack "Pleasantville"1996)
ジョンの名曲だけに有名なカヴァーも多く、選曲が悩ましい1曲です。完全に自分の世界で勝負するデヴィッド・ボウイ(「ヤング・アメリカン」収録)のパワフルな歌唱も素晴らしいし、ジョンよりも明らかに上手いルーファス・ウェインライト(「アイ・アム・サム」サントラ収録)のヴァージョンも定評があります。真っ暗闇で演奏しているようなクラムボンの瞑想的なカヴァーも面白い。しかし悩んだあげく、コンピレーションとしての流れも考えてここはフィオナ・アップルでいかがでしょうか。当初は「プレザントヴィル」のサントラに収められ、後に日本盤のボーナス・トラックなどにも入ったこのカヴァー、淡々としていながらも全面的にフィオナの感性で塗り直された新鮮なヴァージョンです。

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4) I, Me, Mine / Marc Ford (from"Songs From The Material World: A Tribute To George Harrison"2003)
このジョージのヘヴィーなワルツは、ジョージ追悼トリビュート盤に収められた、元ブラック・クロウズのギタリスト、マーク・フォードのカヴァーで。映画では、この曲にあわせてジョンとヨーコが踊るシーンが印象に残っています。マーク・フォードの解釈は原曲よりさらにブルージーでヘヴィーなもの。シャッフル部分の重いブギ感もいいです。

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5) Dig It / Leibach (from"Let It Be"1988)
こんな曲にもカヴァーがあってよかった。ビートルズ・カヴァー好きには有名なスロヴェニアのバンド、ライバッハの「Let It Be」カヴァー・アルバムに収められたヴァージョンです。ジャンルとしてはインダストリアルということになるのでしょうが、ひたすら個性的。またこのアルバムは「Let It Be」のカヴァー・アルバムでありながら、なぜか「Let It Be」は収められず、かわりに「Get Back」が入っていることでも知られています。

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6) Let It Be / Aretha Franklin (from"This Girl's In Love With You"1970)
アトランティック・レコードの創始者であるアーメット・アーティガンは「この曲はもともとポールがアレサのために書いた曲」と語っていたそうですが、本当かしらん。でもその言葉も信じたくなってしまうようなカヴァーです。名曲だけにカヴァーの数も半端ではなく、中でもグラディス・ナイト&ザ・ピップス、レイ・チャールズ、キング・カーティスといった人のカヴァーが素晴らしい出来。ゴスペル・フィーリングたっぷりの曲なので、ブラック・ミュージックの人の解釈にやっぱり説得力があるのです。そういう意味で、やっぱりゴスペル感覚たっぷりのアレサが素晴らしい。後半のフェイクによる盛り上がりも凄い。

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7) Maggie Mae / The Vipers Skiffle Group (from"Great British Skiffle: Just About As Good As It Gets!"2008)
トラディショナル曲のビートルズによるカヴァー。ビートルズが前身のクオリーメン時代からよく演奏していた曲です。オリジナル演奏と呼べるものはないかな~と思っていたら、オムニバスの中にありました。50年代のロンドンで大活躍していたスキッフル・グループ、ザ・ヴァイパーズによる録音です(ただしタイトルは「Maggie May」)。これがまさにビートルズの「Maggie Mae」そのまんまで、ビートルズもスキッフルから出発していることがよくわかります。なお、このグループのプロデューサーは実はジョージ・マーティン。偶然なのかどうか…。

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8) I've Got A Feeling / KGB (from"KGB"1975)
マイク・ブルームフィールド、バリ・ゴールドバーグ、カーマイン・アピス、リック・グレッチ、レイ・ケネディという豪華メンバーが集まったスーパー・バンド(しかしこのメンバーでのアルバムはこの1枚のみ)によるカヴァー。冒頭からマイク・ブルームフィールドのスライドがキュイ~ンときてしびれます。ソウル感たっぷりのレイ・ケネディのボーカルも素晴らしく、女声バック・ヴォーカルがこれを引き立てる。この曲のファンキーでソウルフルな側面にスポットを当てた名解釈だと思います。他のカヴァーとしてはパール・ジャム(ファースト・アルバム「テン」の日本盤ボーナス・トラック)も決して悪くないのですが、「All these years I've been wandering around…」のところでエディ・ヴェダーが高音が出ずに失敗してるのが気になります。

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9) One After 909 / Willie Nelson (from"Come Together: America Salutes The Beatles"1995)
ジョンとポールの若書きによるロックン・ロール・ナンバーを、カントリー界の大御所ウィリー・ネルソンがカヴァー。何しろトレイン・ソングといえばカントリーの定番です。ここでも疾走する汽車の汽笛をハーモニカで鳴らしながら駆け抜けます。これがなかなか爽快。

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10) The Long And Winding Road / Ray Charles & Count Basie Orchestra (from"Ray Sings Basie Swings"2006)
なんとレイ・チャールズとカウント・ベイシー・オーケストラの夢の共演による「The Long And Winding Road」。これは凄いです。ただし本物の共演というわけではありません。1973年に両者がライヴで共演したレコーディングが新たに発見され聴いてみたところ、レイの歌は素晴らしかったものの、オーケストラの録音があまりに貧弱だったため、オケは新たにスタジオで新しく取り直して編集技術でうま~くはめこんだ…ということらしいです。まあいずれにせよソウルに溢れた素晴らしい演奏。レイは凄い。この曲がこんな風になるんだ…ということが驚きをもって体感できます。

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11) For You Blue / Greg Hawkes (from"The Beatles Uke"2008)
ここでちょっと息抜きのインストを。ジョージのフォーク・ブルーズを、元カーズのキーボーディストだったグレッグ・ホークスがウクレレだけでやってみましたというカヴァー。これがなかなか面白く聴けるのは、ジョージも後年ウクレレを愛好していたから。まるでジョージが演奏しているような気がしてくるから不思議で、ジョージへの愛が感じられる素敵なヴァージョン。

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12) Get Back / Rod Stewart (from original soundtrack "All This And World War II"1976)
この名曲も数多くのカヴァー・ヴァージョンがありますが、最後はロッド・スチュワートに締めてもらいましょう。壮大に始まるこのヴァージョン、本編のアレンジには大きな冒険はないものの、やはりロッドがあの声で歌っているところが非常に魅力的。そして最後、曲が終わってからロッドが冒頭の歌詞を呟くように歌うところが、なんだか寂寥感と開放感の両方が感じられてとてもいいのです。ひとつのバンドがここで終わったんだ、ということを感じられるカヴァー・ヴァージョンを、このアルバムの最後に置いておきたいと思います。

オリジナル・アルバムはこれですべてカヴァーを紹介し終わりました。次回は、最後に残った「Past Masters Volume 2」です。

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Covered Beatles (14) Abbey Road 編

久しぶりの Covered Beatles です。いろいろとコメントも頂いていたのに、あともう3枚というところで長々とお休みしてしまって申し訳ありませんでした。まあ、別に仕事で書いているわけでもないので許して下さい。初めての方のためにひとことだけ説明しておくと、ビートルズの全公式録音曲(ビートルズによるカヴァー曲は除く)を全部違う人のカヴァーで探してみようという酔狂な試みです。今回は実質的ラスト・アルバムの「Abbey Road」。

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1) Come Together / Ike & Tina Turner (from"Come Together"1969)
アルバムのトップを飾るこの曲からして、有名アーティストによる名カヴァーが目白押しなのだから、選曲者としては頭が痛いところです。原曲そのまんまのエアロスミス、渋いブラザーズ・ジョンソン、ファンク路線のサラ・ヴォーン、いずれも一聴の価値はありますが、ここではアイク&ティナ・ターナーのパワフルなカヴァーで。基本的には原曲のニュアンスをなぞりながらも、ティナの絞り出すようなソウルフルなヴォーカルがオリジナルにはない魅力となっています。このロックともソウルともつかないサウンドがアイク&ティナならではの味で、数多いこの曲のカヴァーの中ではキラリと光るものを感じます。次のアルバム「Workin' Together」(1970)に収められた「Get Back」のカヴァーも同じ路線で、いい出来です。

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2) Something / Carmen McRae (from"Just A Little Lovin'"1970)
この名曲もカヴァーに恵まれているだけに、誰のヴァージョンにするかはかなり悩ましい問題です。アイザック・ヘイズの11分超のカヴァーは確かに凄いけれど、アルバムの2曲目で聴きたくないというのが正直なところ。「Something」大好きと公言していたフランク・シナトラの録音は、あまりに完璧すぎて面白みに欠けると思うのは私だけでしょうか。そこで、大物ジャズ・シンガー、カーメン・マクラエの1970年のアルバムから選んでみました。ジャズというよりはポップでムーディーなアレンジで、歌いまわしにはこの人ならではのゴスペル感覚が溢れています。このアルバムには他にも「Carry That Weight」「Here, There And Everywhere」のカヴァーも入っており、裏名盤的な評価を得ています。そういえばカーメンには「Got To Get You Into My Life」のカヴァーもありました(「For Once In My Life」収録)。

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3) Maxwell's Silver Hammer / Anita Harris (from"Anita In Jumbleland"1968)
ポールお得意のノヴェルティ・ソングの決定版的作品。この不気味で楽しい曲は、普通にカヴァーしたのではなかなかその面白みが伝わりません。そこでイギリスの女性タレント、アニタ・ハリスが出演したテレビ番組のサントラより選曲。子供向けのミュージカル番組らしいのですが、効果音を含めてノヴェルティ感覚たっぷり、楽しさ満点のカヴァーです。

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4) Oh! Darling / Huey Lewis (from "Come Together: America Salutes The Beatles"1995)
これもまた超有名曲ですが、この「アメリカのカントリー・シンガーたちによるビートルズ・カヴァー集」の中に入っているヒューイ・ルイス(日本のポップス・ファンにとってはロック・シンガーの印象が強いですが、確かにカントリー的な傾向の強いシンガーです)のカヴァーを推します。何の小細工もないストレートな歌唱で、大陸的なノリがオールド・スタイルのロッカ・バラードというこの曲の本質を見事に描き出しています。なんとも土臭い感じが最高。そしてヒューイのシャウトはやっぱりぐっときます。

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5) Octpus's Garden / Samuel E. Wright (from original soundtrack "The Little Mermaid II: Return To The Sea"2000)
これもまともにカヴァーしたのでは全く面白みの伝わらない曲です。リンゴのとぼけた味をさらに増幅させるカヴァーはこれしかありません。ディズニー映画「リトル・マーメイド2」のサントラより、カニのセバスチャン(声:サミュエル・E・ライト)が歌うカヴァー・ヴァージョン。もちろんジャマイカ英語です。カニに歌われたのではもうどうしようもないでしょう。楽しいことこの上なし、最強のカヴァーです。

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6) I Want You (She's So Heavy) / Alvin Lee (from"Nineteen Ninety Four"1993)
ブッカー・T & MG’s による、イントロで思わず「く~っ」と唸りたくなるブルージーなインスト・カヴァーも素晴らしいのですが、ここは元テン・イヤーズ・アフターの早弾きギタリストのソロでいってみましょう。10分近い長尺のトラック、後半は弾きまくりのギター・ソロが圧巻で、スライド・ギターでジョージが参加しているところもポイントが高い。分厚い音の壁がぐるぐる回る感覚が、原曲をさらにパワーアップさせたようで名演。

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7) Here Comes The Sun / George Benson (from"The Other Side Of The Abbey Road"1969)
名曲ぞろいの「アビー・ロード」のカヴァー選びは難行苦行です。この曲の数ある名カヴァーの中から、たった1曲選ばなくてはいけないなんて…。このジョージ・ベンソンの「アビー・ロード」カヴァー・アルバムから選んだのは、A面最後の「I Want You」が終わって、レコードをひっくり返して流れてくるときに一番ホッとするのはこんな音なのではないか…という、コンピレーションとしての流れで考えたからです。ギターではなく、柔らかくあたたかいピアノとストリングスで包み込んでくれるようなアレンジがいい。最後まで残っていたもうひとつの候補は、ニーナ・シモンによるやはりピアノ主体の素晴らしいカヴァー(「Here Comes The Sun」収録)。カヴァーとしての完成度はこちらの方が上かもしれません。これは本当に決め難い!

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8) Because / Elliot Smith (from original soundtrack "American Beauty"1999)
ビートルズ・カヴァーの世界の深遠さに気付き、ビートルズのカヴァーを全部違う人で集めてみようかな…と私が思ったきっかけは、このエリオット・スミスのカヴァーを聴いたことでした。映画の中での使われ方も印象的でしたが、原曲ではジョン、ポール、ジョージが歌っている三声のハーモニーを、たったひとりで多重録音したこのカヴァーは、宝石のような輝きを放っています。たとえ、その後のエリオット・スミスの悲劇を知らなくても、この悲しく美しいサウンドに心が動かされない人はいないでしょう。そしてそれは何よりも、原曲の美しさでもあるのです。必聴。

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9) You Never Give Me Your Money / Sarah Vaughan (from"Songs Of The Beatles"1981)
このアルバム後半のメドレーの気持ちの良い「流れ」を崩さないことは、カヴァー・コンピレーションを作る上でも気をつけたいところです。そこでサラ・ヴォーンの登場。TOTOのメンバーをはじめとする西海岸のクロスオーヴァーのミュージシャンをバックに、サラが気持ち良くビートルズ・ナンバーを歌い上げるこのアルバムは、実は私のお気に入りの1枚でもあります(ゴリゴリのジャズ・ファンには嫌われそうですが)。1曲1曲のアレンジがかなり斬新で、これはマーティー&デヴィッド・ペイチ父子のお仕事。立派です。この曲も中間部でリラックスした4ビートになるところがとても洒落ています。

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10) Sun King / noon (from"Apple of her eye りんごの子守唄"2005)
気持ち良い流れを受けて始まるのが、大阪出身のジャズ・シンガー noon による、さらに心地よいカヴァー。管楽器とオルガンをフィーチュアしたいかにも鈴木惣一朗的なバックに、noon のけだるいヴォーカルがたゆたう、南国の午睡のようなトラックです。とくに後半のスペイン語の部分は完全にシエスタ・モード。

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11) Mean Mr. Mustard / The Receiver (from"It Was 40 Years Ago Today: A Tribute To The Beatles"2004)
「Polythene Pam」のイントロで始まるので一瞬ギョッとしますが、始まるのは「Mean Mr. Mustard」。その後も「Polythene Pam」のイントロ・フレーズを織り交ぜながらがむしゃらに突き進む、轟音ギターによる素晴らしいオルタナ・カヴァー。このバンドについては全然知りませんが、フー・ファイターズの感じにも似ていて、気持ちいい。メドレーのターニング・ポイントを見事に作り出しています。

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12) Polythene Pam / Roy Wood (from original soundtrack "All This And World War II"1976)
続くのは元ムーヴ、ELOの奇才ロイ・ウッドによるカヴァー。イントロからしてセカンド・ライン・ファンクでぶっ飛んでいますが、最後の方のギターとオケによるプログレ的からみもわけわからず凄い。どうしたらこんなのを思いつくのかよくわからない、変態なアレンジです。

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13) She Came In Through The Bathroom Window / The Youngbloods (from"High On A Ridge Top"1972)
この曲のカヴァーといえば有名なのはやっぱりジョー・コッカーですが、ジョー・コッカーは「With A Little Help From My Friends」で既出なので残念ながらここでは出せません。でも素晴らしい演奏なのでぜひお聴きください。その代わりにご紹介するのが、アメリカのフォーク・ロック・バンド、ヤングブラッズのカヴァーです。後期にはサイケデリックな演奏も繰り広げた彼らですが、このラスト・アルバムに収められたカヴァーは4ビートの軽快なジャズ的演奏。カントリーの要素もあり、飄々としています。

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14) Golden Slumbers / Ben Folds (from original soundtrack "I Am Sam"2001)

メドレー後半の冒頭を飾る名曲は、「アイ・アム・サム」のサントラに収められたベン・フォールズのカヴァーが素晴らしい出来です。ピアノの弾き語りに始まってサビで盛り上がるちょっと大げさな曲調が、ベン・フォールズの芸風に見事にはまっていると思うのですが、いかがでしょうか。

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15) Carry That Weight / Noah And The Whale (from"Abbey Road Now!"2010)
前述した Mojo の今年のビートルズ特集付録CDからの拾いものがこれ。メドレーの「つなぎ」的な位置づけの曲でありながら、どこか終焉を予感させるはかなさもあり、選曲はなかなか難しいところです。カーメン・マクラエのヴァージョンが素晴らしい出来なのですが、既出の人なのでここでは選ぶことができません。困っていたところに現れたのが、このイギリスのインディー・フォーク・バンドの幻想的な短いカヴァーです。メドレーの流れを壊さないようにリンクさせながらも、オリジナルとは全く違った響きを作り出している、得難いカヴァーでした。

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16) The End / London Symphony Orchestra (from original soundtrack "All This And World War II"1976)
ついにメドレーも最後までたどり着きました。ここまで来たら大きな花火を打ち上げてもいいのでは…ということで大袈裟なこのカヴァーを。もともとジョージ・マーティンはこの曲においてシンフォニックな表現をしたかったらしいので、オーケストラによるこのド派手な演奏も流れにはまります。原曲よりも少し長いドラム・ソロが聴けるフィル・コリンズのヴァージョン(ジョージ・マーティンの「In My Life」に収録)も捨てがたいですが、フィルは「Tomorrow Never Knows」で既出なので断念。

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17) Her Majesty / Tok Tok Tok (from"50 Ways To Leave Your Lover"1999)
ビートルズ・ファンのお楽しみ。このおまけトラックにもカヴァーがあるというのは素晴らしいことです。ドイツのアコースティック・ソウル・デュオ、Tok Tok Tok のメジャー・デビュー盤より。ここではダブルベースのみをバックに歌っていますが、最後が「ブチッ」と切れるところまで見事に真似してあってニヤリとします。

世間は「赤盤」「青盤」リマスターで再びビートルズの周辺が賑やかになってきており、喜ばしいことです。私は3歳ぐらいから「赤」と「青」を子守唄代わりにして育ってきました…。次回は「Let It Be」。

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