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Covered Beatles (16) Past Masters Volume Two 編

「ビートルズのオリジナル・ソングを全曲違う人のカヴァー・ヴァージョンで集めることができるか?」という問いに答えるべく始めた Covered Beatles 。ついに最終回に到達しました。去年の3月に書き始めたので、1年半とちょっと。途中ブランクもはさみつつ、ビートルズ・カヴァーの深い森を歩み続けてきました。いやー長かった。ちょうどリマスター盤がリリースされた時期と重なったので、検索ワードでひっかかって通りすがりにのぞいてくださった方も多かったのではないかと思います。最後の1枚は後期のアルバム未収録曲・別ヴァージョンを集めた「Past Masters Volume Two」。「Volume One」のときと同じく、別ヴァージョンが収められている曲は、オリジナル盤の時に紹介したのとは別のカヴァーを選んでいきます。

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1) Day Tripper / Otis Redding (from"Dictionary of Soul"1966)
魅力的なギター・リフのせいか、カヴァー・ヴァージョンの多い曲です。サンバでノリノリのセルジオ・メンデス、BBCセッションで自由奔放に弾きまくるジミ・ヘンドリックス、YMOのテクノ・カヴァーなんていうのもありました。しかしやっぱりこの曲のカヴァーといえばオーティス・レディング。オーティスにとっては同時代のヒット曲ですが、完全に自分の音楽にしてしまっているところが凄い。「イン・ヨーロッパ」のライヴ・ヴァージョンも盛り上がっていて、聴きごたえがあります。

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2) We Can Work It Out / Stevie Wonder (from"Signed, Sealed & Delivered"1970)
これもカヴァー・ヴァージョンの多い1曲。メジャーのヴァースとマイナーの中間部の対比が見事で、カヴァーしがいのある曲だからでしょうか。タイトなリズムで躍動感ある80'sポップにリメイクしたチャカ・カーン、ブルージーかつソウルフルな演奏で大変身させたハンブル・パイなども好きですが、この曲のカヴァーとしては大ヒットしたスティーヴィー・ワンダーのヴァージョンは外せません。これまた完全にスティーヴィーの世界。間奏のハーモニカも最高です。

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3) Paperback Writer / Tempest (from"Living In Fear"1974)
この曲のカヴァーとして代表的なものですが、これを超えるカヴァーがなかなか出てきません。アラン・ホールズワースがいたジャズ・ロック・バンドとして有名なテンペスト。これはホールズワース脱退後のセカンド・アルバムで、バンドの中心人物であるドラマーのジョン・ハイズマンによる手数の多いプレイが堪能できます。解釈としてはがっちりとしたハード・ロック的演奏というべきでしょうか。この他のヴァージョンとしては、まったく無名の人ですがアリソン・ソロのカヴァーが、テンペストをさらに進化させたヘヴィ・メタル的解釈でなかなかでした("It was 40 Years Ago: A Tribute To The Beatles"2004 に収録)。

Faithful






4) Rain / Todd Rundgren (from"Faithful"1976)
これまでの Covered Beatles の選曲からおわかりの通り、私はいわゆる「完コピ」系の演奏はあまり好みません。ビートルズそっくりの演奏を聴いても面白くもなんともないし(それならビートルズのオリジナルを聴いていた方がよっぽどいい)、各人がそれぞれの曲でどのような個性を表現しているのかを楽しみたいのです。もちろん個性ばっかり強調しすぎると、どうしてビートルズの曲をやっているのかよくわからなくなってしまうので、そのあたりの匙加減がアーティストの腕の見せ所ということになります。さて、前置きが長くなりましたが、トッドのこのカヴァーは(同じアルバムに収められている「Strawberry Fields Forever」同様)かなり徹底的な完コピです。しかしながら、このアルバムにおけるトッドのカヴァーはどこかで取り上げたいと考えていました。それは、この完コピには「思想」があるからです。すなわち、トッドというオリジナリティの塊のような人が偏執狂的に完コピすることによって、そこからどうしようもなく滲み出てしまう「個性」を感じることができるのです。もちろんこれはトッドだからできることであって、あまたある凡庸なコピー・バンドの完コピとは全く次元の違う話ですので、お間違えなきよう。最後に「She Said She Said」が入ってくるところもセンス抜群です。他の人のヴァージョンでは、サイケデリック的要素は完全に捨て去ってブルーズ・ロックにしているハンブル・パイや、ノスタルジックな感情に満たされたエド・ハーコートが気に入っています。

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5) Lady Madonna / Caetano Veloso (from"Qualquer Coisa"1975)
この曲の一番楽しいカヴァーは、もちろんファッツ・ドミノによる「先祖返り」ヴァージョンですが、同じパターンはもう「Lovely Rita」でやってしまっているので、ここではカエターノ・ヴェローゾを選曲してみましょう。名盤「クアルケル・コイザ」後半のクライマックス、ビートルズ・カヴァー3連発の最後がこれです。アコースティック・ギターの弾き語りによるリラックスしたブラジリアン・テイストのカヴァー。さらっと弾いていますが、実に新鮮です。ちなみに、このアルバムのジャケットはもちろん「Let It Be」を意識しています。

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6) The Inner Light / Schola Musica (from"The Beatles Gregorian Songbook: The Liverpool Manuscripts"2005)
「リヴァプール郊外にある修道院で、中世のグレゴリオ聖歌の写本が発見された。驚くべきことに、そこにはビートルズの曲や詞と極めて似た内容の聖歌が書き記されていたのだ…」という手の込んだ解説が入った、グレゴリオ聖歌のスタイルによるビートルズ・カヴァー集より。解説によると、なんでもこれらの聖歌は当時その修道院にいたジョン師、ポール師、ジョージ修道僧によって作られたもの。その中でもジョージ修道僧は異教に魅せられてインドにまで足を運び、仏教やヒンズー教の影響を受けた聖歌をたくさん書いたので、修道院長に異端として幽閉されてしまったんだとか。その「異端の聖歌」のひとつがこの「The Inner Light」。グレゴリアン・チャントのイメージ通りのソレム唱法が、この曲のインドっぽい旋律とマッチしているところがなかなか面白い。瞑想的な雰囲気において洋の東西が合一している感じです。

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7) Hey Jude / Wilson Pickett (from"Hey Jude"1969)
超有名曲だけに、ビング・クロスビーからダイアナ・キングに至るまで大量のカヴァー・ヴァージョンが存在します。曲自体にゴスペル的な要素があるので、やはりソウル/ジャズ系の演奏が光っている印象。その中でも決定版はやっぱりこのウィルソン・ピケットでしょう。これぞサザン・ソウル。前半は抑えながらも、ホーン・セクションが盛り上がる後半では大爆発してシャウト!ほとんどウィルソン・ピケットのために書かれた曲のように聴こえてしまいます。ちなみに、この演奏に参加しているグレッグ・オールマンがこの曲をすすめたとか。

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8) Revolution / Thompson Twins (from"Here's To Future Days"1985)
この曲のカヴァーについて書籍やネットに書かれている意見を読むと、なぜかこのトンプソン・ツインズによるヴァージョンはあまり人気がないようです。うーんなぜでしょう、私は大好きです。リアルタイムで聴いていたということもあるのですが、とにかくラウドなギター・サウンドが素晴らしい。弾いているのは、当時ビリー・アイドルのバンドにいたスティーヴ・スティーヴンス(ライヴ・エイドでも弾いてました)。確かに、この曲にもともとあったメッセージ性みたいなものはかけらも感じられないのですが、このシングルにおける攻撃的なギター・サウンドに着目したカヴァーということでもっと評価されてもよいと思います。もうひとつ、ジュールス・ホーランドのビッグ・バンドをバックにステレオフォニックスが演奏するグルーヴィーなカヴァーも最高。ついでに注意。ニーナ・シモンがこの曲をカヴァーしているという記述を時々見かけますが、あれは「とってもよく似ている別の曲」です(ウェルドン・アーヴィンとの共作)。そしてそれも名曲。

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9) Get Back / Amen Corner (from 7"single "Get Back / Farewll To The Real Magnificent Seven"1969)
「Get Back」のカヴァーも山ほどあります。「Let It Be」ではアルバムのラストということで寂寥感のあるロッド・スチュワートを入れましたが、演奏としてはアイク&ティナ・ターナーのヴァージョンの方がカッコいいかもしれません。ファンキーなアル・グリーンも素晴らしい。しかし両者とも既出なので、ここではエイメン・コーナーのヴァージョンを紹介しましょう。イギリスはウェールズ出身のロックバンドですが、R&Bに強く影響されたソウルフルな演奏が特徴で、何も知らずに聴いたら黒人のグループだと思うでしょう。

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10) Don't Let Me Down / Gene (from"To See The Lights"1996)
ブリットポップ時代を駆け抜けたバンドの、初期のシングルB面や未発表ヴァージョンを収めたコンピレーションの中に入っているカヴァーで、ラジオ・セッションでのスタジオ・ライヴです。ゴツゴツとしたバンド・サウンドとヴォーカル(モリッシーに似ているとよく言われた)の魅力で、凡庸なカヴァーから頭ひとつ抜け出した感があります。この曲のカヴァー・ヴァージョンで私が大好きなのはポール・ウェラー。女声コーラス入りでソウルの感覚を前面に押し出した演奏でした。

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11) The Ballad of John and Yoko / Kevin Watson (from"FestivaLink presents: YarmonyGrass 2007 Vo.1"2007)
曲の内容が内容だけに、カヴァーはあまり多くありません。初期のティーンエイジ・ファンクラブによる貴重なカヴァー・ヴァージョンがありますが、彼らにしてはいまいちひねりがなく、面白みに欠けます。ちょっと目先を変えて選んでみたのがこちら。私もあまり詳しくないのですが、アメリカにはヤーモニーグラスというフェスティヴァルがありまして、毎年コロラド州の川のほとりにみんなで集まって自然を楽しんだりバーベキューをしたりジャムバンドの演奏を聴いたりするらしいです。その2007年のライヴ録音の中で、ケヴィン・ワトソンというあまり有名ではないシンガーがギター一本の弾き語りでこの曲をやっています。これがなかなか新鮮で面白い。エンディングも洒落ているし、悪くないです。

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12) Old Brown Shoe / Leslie West (from"Songs from The Material World: A Tribute To The George Harrison"2003)
シングルB面ながらジョージの傑作のひとつに数えられるこの作品を、元マウンテンのレスリー・ウエストがカヴァーしています。のっけからスライド・ギターをギュインギュイン弾きまくって、原曲とは全然違う泥臭いサザン・ロックにしてしまっているので口あんぐり。最初聴いたときは何の曲かまったくわかりませんでした。でも、ジョージはビートルズ後、クラプトンなどと一緒にサザン・ロックにも関与していくので、こういう解釈もアリでしょう。豪快なスライド・ギターに酔いしれるパワフルなカヴァーです。

Young_americans






13) Across The Universe / David Bowie (from"Young Americans"1975)
「Let It Be」ではさらっとしたフィオナ・アップルのヴァージョンを選んだので、対照的にこちらではアクの強いデヴィッド・ボウイのヴァージョンを。このカヴァーにはジョン・レノンがこの曲に込めた瞑想的なニュアンスはどこにもなく、ひたすらボウイが熱唱します。やたらと力が入った後半のシャウトも聴きもの。「Let It Be」のところでも書きましたが、ルーファス・ウェインライトのカヴァーも好きです。

If_i_were_your_woman






14) Let It Be / Gladys Knight & The Pips (from"If I Were Your Woman"1970)
ゴスペル・フィーリングに溢れる曲。だからこそオリジナル盤のときはアレサ・フランクリンを選んだのですが、このグラディス・ナイト&ザ・ピップスのヴァージョンも素晴らしい。他のソウル・シンガーのヴァージョンに比べると粘っこさは抑えて、よりポップ感のあるバラードとして歌っています。ついでにもうひとつ。ビートルズの「Let It Be」はアルバム・ヴァージョンとシングル・ヴァージョンでギター・ソロが全く違いますが、このグラディス・ナイトのヴァージョンはちゃんと「Past Masters」と同じく、シングル・ヴァージョンのギター・ソロのメロディを弾いています。そういえば、歌詞を自分流に変えてしまったアイク&ティナ・ターナーのカヴァーもありました。

10_hits_de_lennon_mccartney






15) Dis-moi je t'aime, dis-le, dis-le moi (You Know My Name) / Gerard Saint Paul (from"10 hits de Lennon & McCartney"1970)
この最後の曲が、ビートルズの全オリジナル・ソングの中で最もカヴァーを探しにくい曲だと思います。こんなふざけた曲をカヴァーしている人が本当にいるんでしょうか。いるんです。フランスのジェラール・サン・ポール。わけのわからないカヴァーです。タイトルからして「You Know My Name」の訳ではないし、内容もフランス語と英語のチャンポン。だいたい「レノン&マッカートニーの10のヒット曲」というアルバムでこの曲を選ぶ意図がよくわかりません。このシュールで馬鹿馬鹿しいセンスが、まさにこの曲の本質を突いていると思います。抱腹絶倒の名(迷?)カヴァーです。

さて、ついに終わりました。「ビートルズのオリジナル・ソングは、全曲違う人のカヴァーで集めることができる」。無事に証明することができました。

でも私はまだ、あの曲はあのヴァージョンの方がよかったかなあとか、あれとあれは入れ替えた方が良かったかなあとか、いろいろ考えてしまっています。どうやら自分が思った以上にビートルズ・カヴァーの森に深く入り込んでしまっているようです。良さそうなカヴァーがあったらまだまだ聴いてみたいと思っているので、どうやらまだしばらくこの森からは抜けられそうにありません。

もし、この Covered Beatles を全部読んで下さった奇特な方がいらっしゃいましたら、ぜひご意見を頂けるとうれしく思います(ひとりのビートルズ・ファンとして)。そしてぜひ、あなたにとって大切なビートルズのカヴァーを教えてください。よろしくお願いします。

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