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再発見される「中国の時代」

1421―中国が新大陸を発見した年 (ヴィレッジブックス)
ギャヴィン・メンジーズ(松本剛史訳)
「1421 中国が新大陸を発見した年」ソニーマガジンズ


ずっと前、たぶん出版されてすぐ買った本なのだが、長らく放置していて、ようやく読んだ。だから本当はこの文庫版ではなくハードカバーで読んだ。しかし、もうハードカバーは絶版らしくてアフィリエイトの画像がない。もしかしたら文庫版には新しい情報が追加されたりしているかもしれないが、それはわからない。

タイトルの通り、鄭和艦隊の第6回航海のときにその艦隊が様々なグループに分かれて世界を探検しつくしていたという話。著者は歴史学者ではなく、英国海軍で潜水艦の艦長までつとめた人物だというところが面白い。大航海時代以前の世界地図、世界各地に残る伝承や遺跡などから、明時代の中国がヨーロッパ人以前に世界を探索しつくしていたという説を唱えている。著者はこの本の刊行後もインターネットで追加情報を公開しつつ自説を展開、新刊も出ているらしい。

大航海時代のヨーロッパ人が初めて世界を「発見」したわけではないというのはもはや常識だろう。それ以前に中国人による「大航海時代」があったいう指摘も別に新説ではないが、ここまで大規模なものだったという壮大なストーリーは斬新で、読み応えのあるものだ。しかしながら、それをすべて鄭和艦隊に帰する本書の議論にも少々無理なところがあるように思える。ヨーロッパ中心主義的な世界史の記述では無視されてきた「中国の大航海時代」の痕跡が世界中に残されている、というのが正しい理解だろう。著者が傍証として挙げる様々な証拠の中にはかなり強引なものもあり、すべてがこの通りに受け取れるわけではない。訳注で控えめに指摘されているように、多くの史料が孫引きのため誤って理解されている部分も多い。アカデミックな立場からすれば、読み物としては面白いけれど、学問的な裏づけはない、と一蹴されてしまうかもしれない。本書の内容は、多少割り引いて考えなければならないものであるのも事実だ。

しかし前述したように、実際に世界の海を航海した経験者ならではの大胆な発想は、すでに部分的には知られていたこの「中国の大航海時代」の規模をさらに拡大して考えることができるのではないか、と思わせるだけの説得力がある。その意味で、今後の著者の研究がどのように展開していくのかを知りたいと思わせる(インターネット上のサイトと連動しているのが現代らしいところ)。本としては、様々な古世界地図と世界中の地名が出てくるだけに、もっと図版や図による解説が丁寧でもよかったかもしれないと思った。

それにしてもやはり大きなポイントは、多くの人がすでに指摘している通り、中国が国際的に発言力をどんどん増している中で、ヨーロッパの側からこういう本が出てきたということだろう。この本で書かれていることが歴史的事実であるかどうかということとは全く無関係に、この本がいま出版され、世界中で読まれているということは、まさに時代の象徴であると思う。

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