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ボッティチェリ未満

Img008京都文化博物館で開催されている「イタリア美術とナポレオン」展を見た。コルシカ島のアジャクシオ市にあるフェッシュ美術館のコレクション展。この美術館のコレクションの基礎を築いたジョゼフ・フェッシュ枢機卿は、かのナポレオン1世の叔父にあたるのだそうで、ナポレオン時代に権勢を得て財をなしたのだろうなと想像する。収蔵作品の数は凄いらしい。この展覧会の一番の売りになっているのが日本初公開というボッティチェリの「聖母子と天使」。若描きで、まだ後年のボッティチェリの画風ではない。むしろ師であるフィリッポ・リッピそっくりで、もしその後ボッティチェリが有名になっていなければ、「リッピ工房作」とされていたかもしれないような作品。繊細で、いい絵ではある。他の作品は、ベッリーニの聖母子像などは好きだが、通りいっぺんというか、宗教画、ヴァニタス的静物画、風俗画、ベドゥータ、19世紀前半のアカデミズム的な趣味の範疇であり、これといったものはない。ただ、親戚関係にあったナポレオン関係の肖像画などは、歴史的な興味をもってみることはできる。フランソワ・ジェラール「戴冠式のナポレオン1世」は有名作品だ。まあ、そのぐらいの展覧会。比較的多くの作品に解説文がついているのは良かった。

5月24日まで。

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物質化された精神のコレクション

Img007_2






杉本博司「歴史の歴史」(国立国際美術館)


不思議な個展だ。古今東西の美術品のコレクターでもあるアーティストの作品が、その蒐集品とともに展示されている。その美意識の源泉を紐解くようでもあるし、蒐集品と作品の響き合う様子に耳を澄ますかのようでもある。

私が杉本の仕事を最初に意識したのはやはり蝋人形のポートレートだろうか。歴史的人物をまるで実在の人物写真のように提示する手法のセンスの良さに舌をまいたし、触感的なディテールにこだわった写真のテクニックにも瞠目した。しかし古美術商として生計を立てていたこともあったとは知らなかった。最近ではU2が最新のアルバム「No Line On The Horizon」のジャケットに杉本の作品を採用している。杉本が近年取り組んでいる「Seascapes(海景)」シリーズの1枚だ。

No Line on the Horizon
 Boden Sea, Uttwil

アートとは技術のことである。
眼には見ることのできない精神を物質化するための。


この杉本の宣言に導かれて今回の個展は始まる。展示は膨大な化石に閉じ込められた古生物の姿を眺めることから始まり、原始的な石器類をかすめ、「海景」シリーズに移る。湾曲した壁面に並ぶ水平線の写真は崇高ですらある。テーマはおもむろに宗教に転じ、自作のリトグラフィを軸装した「華厳滝図」を皮切りに、膨大な宗教関係の文書・絵画・彫刻が陳列される。明恵へのこだわりは興味深い。古い能面のコレクション、これも何かを語りかけるようでインパクトが強い。そして当麻寺の古材(白鳳時代のもの。こんなものまでコレクションしているとは)と写真を用いた「反重力構造」。隅に置かれた昭和天皇の写真入りコンパクト「旭日照波」がやがて来るテーマを暗示する。

別部屋に、国立国際美術館が所蔵する建築写真のシリーズ(以前にも展示があった)が3点。安藤忠雄の「光の教会」の写真はとくに美しい。

第2章は明治の横浜写真から始まり、写真と歴史のテーマを静かに奏でていく。歴史上の人物の小さなポートレート、対日戦争時のルーズヴェルト内閣の写真、東京裁判のA級戦犯の写真(各人サイン入り!)。第二次大戦時の54冊の「タイム」誌、榎本千花俊の「千人針」と戦争のテーマに流れるが、しかしこの流れは唐突に断ち切られて、テーマは人間と宇宙へ移る。アポロ計画の宇宙食、地球に落ちてきた隕石の数々、月の裏側の写真。そしてテーマは美の表象へと移っていく。法隆寺や正倉院の伝来裂のコレクション、紺紙に金字で描かれた華厳経は美しい。エジプトの「死者の書」はまるでマジックで書いたかのようだ。そしてマリア像のミニアチュールを軸装した「マリア観音像」、レンブラントのエッチングを軸装した「レンブラント天使来迎図」、三十三間堂のリトグラフィとオオオニバスのリトグラフィを軸装した三幅、ここまで来るとちょっと笑ってしまうが、司馬江漢の洋風画の軸装を眺める頃には、伝統美とフェイクの感覚の狭間で混乱する自分がいる。

テーマは人体解剖図に移り、ジャック・ゴーティエ・ダゴティの頭部の解剖図や生殖器の解剖図をたくさん見ることになる。杉田玄白の「解体新書」初版もあり。部屋のひっこんだところに飾られたフランシス・ベーコン「ミシェル・レリスの肖像」を見逃すことなかれ。さらにテーマは「放電場」の写真シリーズに写るが、その電流の流れは人体解剖図の後ではやはり毛細血管にしか見ることができない。壁面のガラスが割れているのは「我思うゆえにワレあり」という作品だそうで(会場で流されている映像で制作風景を見ることができる)、マン・レイによるデュシャンのポートレイト、さらに次の部屋のリチャード・ハミルトン「『大ガラス』の地図」に対応している。

そして最後の部屋はひたすらに美しいものだけ。微細な楔形文字の粘土板、磨き上げられた碧玉の車輪石、勃起したペニスのように強靭に屹立する銅矛。古代の品々と杉本のコラボレーションもある。丁寧に並べられた翡翠の管玉「厘細録(ブロークン・ミリメーター)」、室町時代の根来経箱に詰められたブルーの古代ガラス「瑠璃の浄土」、1950年代の消毒器の上に大きさの違う勾玉を並べた「消毒済みの生命」(形態が胎児を連想させる)。はるか古代の人々が作り出した「モノ」と、杉本の美的感覚の出会いが楽しめる。

まるで映画を見ているような気持で会場を回っていたが、とても詩的で瞑想的な展示だった。ひとりのアーティストの思考を展示として具現化するとこういう感じなのかもしれない。地球が誕生して以来、人類が手を加えていないところにも実にすでにアートの根源はあるし(化石、隕石)、人類の歴史の中には「精神の物質化」としての作品を至る所に見ることができる(それが当人たちにとって美的形象と意識されていようがいまいが)。現代のアーティストの行為とは、そのような歴史的に蓄積された美的形象から学びながら、さらに「精神の物質化」を行うための技術を鍛錬していくことにほかならない。人類が積み重ねてきた時間と美的形象について、あらためて考える場となった。

どうでもいいことだけど、やなぎみわ夫妻も来館していた。最近ここでよく見る。

6月7日まで。

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看よ看よZEN・パート2

Img006_2京都国立博物館で開催中の「妙心寺展」 。前回書いた通り、あまりにも絵画の展示替えが多いことに気づき、これは後期も行かなくてはと思ったので、ゴールデンウィーク突入直前の平日昼間に再訪しました(画像のチラシも別ヴァージョンにしてみました)。結論から書くと、これは大正解。禅画に興味がある人(あまりいそうにないけど)、桃山絵画のファン(これはある程度いそうな気もする)、そうでなくても日本美術に興味のある人ならば、絶対に2度訪れるべき展示でしょう。「前期に行き損ねた!」という人も残念だけど大丈夫。なにしろ今回の最大の目玉作品のひとつ(チラシになっているくらい)狩野山楽の「竜虎図屏風」は後期しか出ていないのだから。

前回も書きましたが、墨跡・頂相が変わっても個人的にはどーでもいいんです。学芸員の永島さんには悪いけど、工芸の展示替えもそんなには気にはなりません。でもやっぱり如拙筆の国宝「瓢鮎図」は見なくてはいけないでしょう。このナマズ最高です(ちなみに昔は「鮎」がナマズを表す字であったとのこと)。賛もゆっくり読みたいですがさすがによくわかりません。図録で読むことにしましょう。

狩野元信「四季花鳥図」も4幅全部入れ替わりになっています。さらに伝元信の「琴棋書画図」も後期登場。これが並ぶと、やっぱり大徳寺聚光院の永徳作品を想起します。「琴棋書画図」のタッチは元信も永徳もほとんど同じ。真体だからとかそういう理屈を超えて、元信の影響があまりに大きいことがわかります。しかし「四季花鳥図」に関しては元信と永徳の違いは明らかです。永徳が元信から何を学び、どう発展させたのかが一目瞭然で非常にわかりやすい。これを見ていると、やっぱり聚光院の「四季花鳥図」は永徳の若書きではなく、自分の画風を完成させてからの作品ではないか、という説に肯かざるを得ません。

肖像関係も後期は凄いことになっています。まず、等伯筆であることがほぼ確実な「稲葉一鉄像」。顔の描き方が完全に等伯です。それから等伯筆という説もあった(田沢さんの解説では狩野派筆)「前田玄以像」。実見すると確かに等伯筆ではないですね。しかし、この人が等伯に御所の障壁画や祥雲禅寺(現・智積院)の障壁画を発注した張本人です。それからなんと永徳筆という説もある「細川昭元夫人像」。美人です。で、やっぱり白隠はよくわかりません。でも後期から出展された彩色の巨大な「達磨像」や、改めて「すたすた坊主」などを見ているとなんとなく親しみが湧いてくる感じになりました。

等伯は「枯木猿猴図」に代わって隣華院の「山水人物図襖」。これがまた狩野派とは全く違う線による山水図でいつまで見ても見あきない、素晴らしい水墨画。そして冒頭でも書いた狩野山楽の「龍虎図屏風」。山楽ではさらに「文王呂尚・商山四皓屏風」も展示替えで出てきました。う~ん、前回「くどい」なんて書いてごめんなさい、山楽さん。やっぱり凄いです。狩野派の筆法を確実に守りつつも、永徳の破天荒なエネルギーを受け継いだ人はやはりあなたしかいなかったのではないでしょうか。迫力満点の竜虎図は必見です。そして山雪も後期から「寿老・梅山鵲・竹鳩図」が出てるし(梅の直線的な形態が「老梅図」と同じ)、やっぱり「老梅図襖」は何度見ても視覚的な驚きと喜びを与えてくれます。

そんな感じで前期より凄い展示かもしれない後期でした。これはずるいなあ。でも実はさらに東京展しか出ていない作品というのもあって、白隠はほとんど入れ替わってます。個人的には「棄丸像」と、等伯の「豊干・寒山拾得図衝立」と、狩野永岳の「西園雅集図襖」は見たかったかな。ああ、ほんとに来館者泣かせな展示替え。

会期終りに近づくと混雑すること必至。やっぱり、看よ看よ!

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ぬるやわアート

Img005_2仕事が忙しくて行きそびれていた展覧会に、ゴールデンウィークが始まる前に行ってしまおうと思っている。そのひとつ、サントリーミュージアム[天保山]で開催中の「インシデンタル・アフェアーズ うつろいゆく日常性の美学」 を観にいった。 肩肘はらない気軽なコンテンポラリー・アートの企画という感じを目指したのだろうか。僕もさほど現代アートの作家たちには詳しくないので、今回の出展作家の中でよく知っているのは宮島達男ぐらいなものか。あとの作家は名前をきいたことがあるくらいか、全く知らないか。意図的に若手や日本では無名な人を積極的に採用している。そのほうが作品そのものに向き合えて好都合だ。佐伯洋江や横井七菜の細密でグラフィカルなドローイングが好きだ。榊原澄人のアニメーション作品「浮楼」はいつまで見ていていも見あきない秀作。トニー・アウスラーのグロテスクな顔のプロジェクションも面白いよね。さわひらきの「Going Places Sitting Down」は繊細な映像。日本人のエレクトロニカ作品を聴いているときにもこんな感覚があるよね・・・ということで僕はやっぱり日本人が作り出す感性に反応してしまうのでした。まあ意地悪く言えば、どれも微温的なニュアンスの漂う、アートとしては衝撃力や破壊力の弱い作品が目立つ。まあ今日みたいな、ちょっと風邪気味で疲れていて、コンテンポラリーアートでもぼんやりと眺めてぼーっとしたいときにはこういう作品群もいいな。

5月10日まで。

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マジカル・スターライト・パレード?

ユニヴァーサル・スタジオ・ジャパンというところに行ってきたのですが(2回目、最初に行ったのはまだオープンして間もないころでした)、3月からマジカル・スターライト・パレードという夜の電飾パレードが始まっているんですね。うん?それは某競合テーマパークのエレクトリカル・パレードになんだか似ているのでは・・・?とかすかな疑念を抱きつつ、始まってみたらこんな感じでした。
Msp



エルモ、スヌーピー、キティという、節操がないというかまるで統一感のない先導集団。スポンサーがアート引越センターだから、次にドラえもんが出てきても全く違和感はないぞ(出てこなかったけど)。そのあとに出てきたのがアリス。それからアラビアン・ナイト。それからシンデレラ・・・って全部ディズニーじゃん。いや、さすがにディズニーのキャラをそのまま使ったりはしていないし、物語そのものはもちろんパブリック・ドメインなのですが、感覚的にちょっとギリギリですね。とくにシンデレラはかなり厳しかった。ネズミと小鳥がシンデレラのドレスを縫うというストーリーは完全にディズニー映画の領域に入っているのではないでしょうか。それとも、それもシャルル・ペローのオリジナル・ストーリーに含まれているのでしょうか。でも、ネズミの声のヴォイス・チェンジの感じがディズニー映画そっくりだったし、そっくりのシンデレラのアニメ映像も使用していた。いやあ、よくぞここまで思い切ったなあという感じです。

著作権関係にあれだけうるさいD社のことなので、クレームがつかないように全部きちんとしているとは思うのですが、ここまでディズニー・ネタで、しかもエレクトリカル・パレードに酷似したものをやるというこの企画に、思い切ってGO!を出した会社の判断に恐れ入りました。なんだか中国のどこかにあるというテーマパークの話など思い出しましたが、そんなことは言わないでおきましょう。いや、びっくりしたな。

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幻想の南極

雪男たちの国
ノーマン・ロック(柴田元幸訳)
「雪男たちの国 ジョージ・ベルデンの日誌より」河出書房新社

帯がいいですね。「目が覚めたら、私は南極にいた」。帯裏もいいですね。「凍った影、死者の音楽、残酷な詩、氷河に現れた赤い靴の女」。このフレーズのうちどれかはそのうち使ってみたくなること請け合い。

柴田氏の訳だと、どんな本でも何となく読んでみたいという誘惑に駆られるものですが、これもそんな誘惑に負けた一冊。偶然発見されたジョージ・ベルデンの日誌をもとにしているという文学的な仕掛けはともかく、ある朝起きたらスコットの探検隊の一員になっていたという設定は、読み手をぐっとひきつけてしまう魅力的なものです。文章は全編に詩的なイメージが満ち溢れていて、それがうっすらと靄のかかったような極地での精神状態を反映しているような感じなのですが・・・ん~、正直なところ物語としてはちょっと読みにくいです。語りの力ではなくて、詩的なイメージの連鎖で哲学的な含意を伝えていこうとするタイプの小説。この幻想的な世界に浸るのは楽しいけれど、読み終わったときに伝わるものは少ないのでは。これはちょっとインテリ向けの遊戯に終わっているかもしれない。

極北探検の話だったら、ジョン・フランクリンのことが僕はいつも頭から離れないな。その残酷なイメージが僕の心の中に貼りついている。

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アンデラーとは誰か

ブロデックの報告書
フィリップ・クローデル(高橋啓訳)「ブロデックの報告書」みすず書房

素晴らしく読み応えのある小説だった。場所は中欧のどこかの田舎の村、時代は第二次世界大戦直後、そこで起きた集団殺人の「報告書」を作るように村人たちから命じられた主人公ブロデックの想像を絶する過去が次第に明らかになっていく・・・。著者のフィリップ・クローデルはいまフランスを代表する人気作家のひとりということだが、寓意的な語りの魅力が読み手をぐいぐいとひっぱっていく。1962年生まれという完全な戦後世代が、自国の戦争犯罪の問題に向き合っているというのも興味深い。当事者ではない分、計画的なユダヤ人虐殺という歴史的事実に対して突き詰めたリアリティは薄いのかもしれないが、人間性とは何かという問題に注いでいるまなざしの確かさは伝わってくる。それにしても、まるでカフカの測量技師のように村を訪れる「アンデラー」とはいったい誰なのだろうか。私には、それは村人の心に重くのしかかっている「両親の呵責」の象徴のように見えた。良心を虐殺することによって私たちは戦後を生き延びたのだ、と。

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看よ看よZEN

Img004東京国立博物館から巡回してきた「妙心寺展」(京都国立博物館)、まずは前期で観ました。まあいろんな大人の事情があるかとは思いますが、妙心寺の展覧会ぐらい京都から始めて頂きたいものです。えーと、たっくさん出ている頂相とか墨跡とかは妙心寺の歴史を知る上では「へ~」という感じですが、正直あんまり興味は湧きません。漆工芸品は、別に学芸員の永島さんが友達だから書くわけではないのですが、非常に美しくて良かったです。美術ファンとして心惹かれるのは、まずは雪舟の「寿老図」。それから狩野元信と伝相阿弥の「瀟湘八景図」が並べて展示されているのも面白かった。狩野派の風景の描き方が、相阿弥系(こちらは等伯に受け継がれていくと私は考えています)と違うのがよくわかりますからね。それから、白隠はやっぱり私はよくわかりません。達磨とか。もう少し修行してからでないと心に来ないという感じです。禅の道は深い。

豊臣秀吉の夭折した愛児、鶴松(棄丸)の遺品が妙心寺にこんなにあるというのは、歴史ファンにとっては常識なのでしょうか。秀吉はそのあと東山に祥雲禅寺を建てて菩提寺にするので(そこに等伯が障壁画を描く)、そっちに全部持って行ったのかと思いきや、そうでもなかったのか。それとも豊臣滅亡後に祥雲禅寺が廃寺になったときに、妙心寺に全部持って帰ってきたのか(鶴松の木像などはそうだと解説されていました)。とにかくおもちゃの船、玩具船は今回の展示の中では最高でした。小さな武具や太刀もあり、このあたりは今後仕事上のネタとして使えそうです。

そしてやっぱり等伯の「枯木猿猴図」でしょう。何度も写真で見ているけれど、これはやっぱり凄いです。明らかに「松林図屏風」以降のタッチだと思いますが、この墨遣いは素晴らしい。もとは襖絵か壁貼付ですね。もとの画面を想像するのも楽しいです。これに比べれば、海北友松は私にはぜんぜんぐっとこない。当時の狩野派トップクラスを超えていないかなと思ってしまいます。

狩野山楽は私にはちょっとくどく感じるのですが、山雪はやっぱり素晴らしい。「老梅図襖」がはるばるメトロポリタンから里帰りしていたことを知りませんでした。「グロテスクな巨木の痙攣」(辻惟雄先生)という名フレーズと共に脳裏に刷り込まれた図像ではありますが、実物を間近で見ると改めて言葉を失います。禅寺にこんな梅の木を描く人はやっぱりちょっといっちゃってますね。凄いです。

こんな感じで、ここ数年の私はどうにも桃山美術の魅力から抜け出せないのですが、また今回もずぶずぶになってしまいました。しかもこの展示、後期に等伯の隣華院の襖が出てくるという憎らしい構成になっているんですね(脇坂先生、どうにかなりませんか)。山楽の竜虎図屏風も後期。ということは、後期にもう一度来ないと目玉品の半分は見れないということです。なんともずるい展覧会です。後期は4月21日から5月10日まで。ゴールデンウィークに入ったら大変なことになってしまうと思うので、早めに行ってきます。

妙心寺というとちょっと地味な印象があるかもしれませんが、美術ファンは必見。コピー通り、看よ看よ!な展覧会なのでありました。

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麻婆豆腐とクレー

Img003 ビートルズ・ネタをひとまずお休みにして、最近のことを少し。兵庫県立美術館に巡回してきた「20世紀のはじまり ピカソとクレーの生きた時代」展のプレヴューに先日足を運んできました。去年の秋から名古屋市美術館、Bunkamura と回ってきたみたいですね。デュッセルドルフのノルトライン=ヴェストファーレン州立美術館のコレクションから、20世紀前半の主要な美術動向を代表するビッグネームを集めた展示です。具体的にはフォーヴィスムからシュルレアリスムまでということになるのかな。その中でもとくにピカソとクレーに重点を置いているということのようです(この2人を前面に出せばある程度のお客さんも呼べるしね)。

プレスの一行は学芸員の服部さんと、所蔵館のキュレーターであるアネッテ・クルツィンスキさんと一緒にがーっと回ったので、ゆっくり見ていたかったけれどその余裕はありませんでした。今度私用でゆっくり見に行こう。えーと、ピカソもいいですが、クレーのいい作品がかなり来ているのでお見逃し無きよう。「リズミカルな森のラクダ」(1920)はもちろんですが、最晩年の、あの線だけで描かれた寓意的な作品群のいいのが来てます。デュッセルドルフはクレーにも縁の深い土地なので(バウハウスを辞めた後でベルンに亡命するまでこの地で教えていた)、気合いを入れてコレクションしている感じがよく伝わります。この美術館が、そもそも戦後にナチスの「退廃芸術」政策への反省を込めて作られた近現代美術館であることを知ってから見ると、より理解できるかも。そしてその前段階の社会状況を理解するためにはベックマンの「夜」(1918-19)が役に立ちます。強烈な作品です。

ノルトライン=ヴェストファーレン州にはヴッパタールもあるので、ピナ=バウシュの舞踊団も有名ですね。ライン川沿いには大企業が多いし(最近は不況なので大変でしょうけれど)モダン・アートには比較的理解のありそうな土地柄です。余談ですが、兵庫県立美術館に行く時には僕は必ず岩屋駅近くの「同源」で麻婆豆腐を食べています。自分の中ではもうほとんどこの2つはセットになっています。ここのきちんと「麻」と「辣」の効いた麻婆豆腐がやみつきな人、僕だけではないと思います。

5月31日まで。

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Covered Beatles (5) Help! 編

ビートルズの全オリジナル・ソングの優秀なカヴァー・ヴァージョンを勝手に選定するこの独自企画も、ついに「Help!」まで到達いたしました。

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1) Help! / The Damned (from 7"single "New Rose / Help!" 1976)

有名曲だけあって、さすがに数多くのカヴァー・ヴァージョンが存在します。初期ディープ・パープルのアート・ロックなカヴァーも有名だし、カーペンターズのカヴァーも秀逸。しかしここでは1曲目ということを重視して、ロンドン・パンクのオリジネイター、ダムドのファースト・シングル(Stiff Buy 6)B面からチョイス。速くてあっというまに終わってしまいます。もっとラウドなライヴ・ヴァージョンもあり。

Let_it_be_jazz






2) The Night Before / Connie Evingson (from "Let It Be Jazz" 2003)

ミネアポリスを拠点に活動している美人ジャズ・シンガー、コニー・エヴィンソンのビートルズ・アルバムより。ピアノのみをバックにしっとりと歌い上げ、原曲とは全く異なるイメージを作り出しています。

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3) You've Got To Hide Your Love Away / The Silkie (from "You've Got To Hide Your Love Away" 1965)

この曲もカヴァー・ヴァージョンの多い名曲です。ノエルが歌うオアシスのヴァージョンや、エディ・ヴェダーのソロも捨てがたいですが、男女コーラスによるこの有名なヴァージョンを、この曲のカヴァーの原点として選んでおきましょう。爽やかな歌声が、ビートルズとはまた違ったムードを生みだしています。

Thanks_for_the_pepperoni






4) I Need You / Fine! (from "Thanks for the Pepperoni" 2008)

前期ジョージの曲はなかなかいいカヴァーに恵まれないことが、このプロジェクトを通してだんだんわかってきたのですが、この曲も例外ではありません。いろいろと探してみたところ、マイナー・レーベルから出たこのトリビュート盤のヴァージョンが秀逸。女声ヴォーカル、ボサ・ノヴァ・スタイルで癒されます。

Pistol






5) Another Girl / The Punkles (from "Pistol" 2003)

基本的にビートルズ・カヴァー・バンドやコピー・バンドからの選曲はやめようというのがこの企画のルールなのですが、このドイツ出身のパンク・カヴァー・バンドだけはどこかで取り上げざるを得ない存在でしょう。いつも通りガンガンいってます。

The_beatles






6) You're Going To Lose That Girl / Dwight Twilley (from "The Beatles" 2008)

日本での知名度は低いのですが、70年代から活躍するタルサ出身のロック・シンガーによるカヴァー。このミニ・アルバムはどうやらネット配信のみの発売らしいです。ロックン・ロール感が抜群。

Ticket_to_ride






7) Ticket To Ride / Carpenters (from "Ticket To Ride" 1971)

ヴァニラ・ファッジの有名なヴァージョンを選べないのは非常に辛いところ。しかしこの曲に関しては何をおいてもカーペンターズの超有名なカヴァーを選ばざるを得ないでしょう。クラシカルなピアノのイントロ、そしてカレンの声。ファースト・アルバムにして、すでに完成されたカーペンターズの世界を堪能することができます。

8) Act Naturally / Buch Owens
ビートルズによるカヴァー。オリジナルはウエスト・コースト・カントリーの巨匠バック・オーウェンスによるヒット曲です。

Lets_stick_together






9) It's Only Love / Bryan Ferry (from "Let's Stick Together" 1976)

ブライアン・フェリーのサード・ソロ・アルバムより(邦題は「ミスター・ダンディ」)。ふにゃふにゃした歌がなんだかこの曲にあっているので選んでしまいました。フェリーはファースト・ソロ・アルバムでも「You Won't See Me」をカヴァーしていて、これも有名。

He_was_fab_2






10) You Like Me Too Much / Chris Richards (from "He Was Fab: A Loving Tribute to George Harrison" 2003)

ジョージ・トリビュート盤からの1曲。Hippodrome や Pantookas のシンガー/ギタリストだったクリス・リチャーズによるパワー・ポップ・カヴァーです。

Uncut






11) Tell Me What You See / Teenage Fanclub (from Uncut "Why Don't We Do It In The Road?" 2001)

パワー・ポップ続きで恐縮ですが(笑)、ティーンエイジ・ファンクラブによるレアなカヴァーです。イギリスの音楽雑誌「Uncut」2001年7月号付録のコンピレーション・アルバムにのみ収録されています。手に入りにくいライヴ・ヴァージョンなども入っていて、なかなか便利なコンピレーションですが、現在はちょっと入手困難かも。

Wheatstraw_suite






12) I've Just Seen A Face / The Dillards (from "Wheatstraw Suite" 1968)

原曲がカントリー・タッチなので、やっぱりカントリーのカヴァーが合います。この曲の名カヴァーとして名高い1968年のヴァージョン。完全にブルーグラスです。

Thats_the_way_love_is






13) Yesterday / Marvin Gaye (from "That's The Way Love Is" 1970)

この曲のカヴァーが何千種類、あるいは何万種類あるのかわかりませんが、とにかく最も数多くカヴァーされたビートルズ・ナンバーであることは間違いないでしょう。私が個人的にその最高峰と信じて疑わないのがこのマーヴィン・ゲイによるヴァージョンです。メロディーを完全にフェイクしつつも、原曲の美しさを失うことなく、なおかつ曲を完全に自分のものとして歌っている名カヴァーです。

14) Dizzy Miss Lizzy / Larry Williams
ビートルズによるカヴァー。オリジナルはラリー・ウィリアムス。アルバムの最後をロックン・ロールのカヴァーでしめるのは前期のアルバムのお約束でしたが、この「Help!」がその最後の例となります。

次回は「パスト・マスターズ Vol.1」のカヴァーを探してみましょう。あの曲のカヴァーも、もちろんあります。

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Covered Beatles (4) Beatles For Sale 編

Covered Beatles 第4弾は「Beatles For Sale」です。よく言われるように、カヴァー曲の多い小粒なアルバムですが、オリジナル曲のクオリティは高いし、カヴァーも選びがいがあります。

Holton_steel_part_ii






1) No Reply / Gary Holton & Casino Steel (from "Holton & Steel Part II" 1982)

たぶん日本ではほとんど知られていませんが、イギリスでは有名な俳優でロックシンガーのゲイリー・ホルトンによるカヴァー。ドラッグ&アルコールに溺れて破滅的な人生を送った彼のキャラクターに重なるような、やさぐれた歌い方が好き。

Marianne_faithful






2) I'm A Loser / Marianne Faithful (from "Marianne Faithful" 1965)

この曲のカヴァーとしては比較的よく知られているヴァージョン。マリアンヌ・フェイスフルのデビューアルバムに収められています。彼女のキャラクターにぴったりのポップなアレンジ。

Beatle_country






3) Baby's In Black / The Charles River Valley Boys (from "Beatle Counrty" 1966)

いまや古典的なビートルズ・カヴァー・アルバムともいえる、チャールズ・リヴァー・ヴァレー・ボーイズによる名盤から選曲。どの曲も完全にブルーグラス化していて秀逸。フラット・マンドリンが効いてます。

4) Rock And Roll Music / Chuck Berry
ビートルズによるカヴァー。チャック・ベリーによる問答無用のR&Rクラシック。

Sun_set






5) I'll Follow The Sun / Linda Ciofalo (from "Sun Set" 2007)

NYを拠点に活動しているジャズ・ヴォーカリスト、リンダ・チォファロのカヴァー。原曲とは少しイメージを変えた、しっとりと都会的なジャズに仕上がっています。

6) Mr. Moonlight / Dr. Feelgood & Interns
ビートルズによるカヴァー。ビートルズのオリジナル曲だと思っている人も多いですが、1962年のドクター・フィールグッド&インターンズのレコードがオリジナル。この曲を収めたアルバムも最近再発されました。アレンジもほとんど一緒です。ギターだった間奏をオルガンに変えたぐらい・・・でもあのオルガンが聴き手に強烈な印象を与えるところが、ジョージ・マーティンの凄さでしょう。

7) Kansas City ~ Hey, Hey, Hey, Hey / Little Richard
ビートルズによるカヴァー。リーバー&ストーラー作の「カンサス・シティ」はウィルバート・ハリスンなどでも有名ですが、これに自作の「ヘイ・ヘイ・ヘイ・ヘイ」をつなげてメドレーで歌うのはリトル・リチャード流。

Procols_ninth






8) Eight Days A Week / Procol Harum (from "Procol's Ninth" 1975)

「青い影」で有名なプロコル・ハルムによるカヴァー。アレンジは原曲からそれほど離れていないものの、荒々しいヴォーカルが曲のまた違った魅力を明らかにするヴァージョン。

9) Words of Love / Buddy Holly
ビートルズによるカヴァー。日本での人気はいまいちですが、ロックン・ロールのオリジネイターのひとりとしてバディ・ホリーは重要な存在です。

10) Honey Don't / Carl Perkins
ビートルズによるカヴァー。シングル「ブルー・スエード・シューズ」のB面がこの曲。

Yes






11) Every Little Thing / Yes (from "Yes" 1969)

前奏が始まってもしばらくは何の曲なのかさっぱりわかりませんが、あのイエスのデビューアルバムに収められたカヴァーです。ビル・ブルフォードのドラミングがこの時点からあまりに凄いので驚きます。ピート・バンクスは「デイ・トリッパー」のリフを引用したりして遊んでます。それにもちろんジョン・アンダーソンの声が魅力的。

Hits_19791989






12) I Don't Want To Spoil The Party / Rosanne Cash (from "Hits 1979-1989" 1989)

原曲が完全にカントリーなんだから、これはもうカントリー系のカヴァーでいくしかありません。ジョニー・キャッシュの娘、ロザンナ・キャッシュの由緒正しい100%カントリー・カヴァーは、フィドルも気持ちいい理想的なヴァージョン。

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13) What You're Doing / Lisa Lauen (from "Loves The Beatles" 2006)

シカゴ出身、ジャズ・シンガーというよりはポップ・シンガーだと思いますが、リサ・ローレンのビートルズ・アルバムに収められた1曲。原曲のワイルドな感じは完全に消え去り、女性の立場からの悲しみを前面に出した面白い解釈です。

14) Everybody's Trying To My Baby / Carl Perkins
ビートルズによるカヴァー。ロカビリーの王者、アルバム2度目の登場です。

次はいよいよ「Help!」ですね。お楽しみに。

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