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まるで印象派のようなアイヴズ

Img002_2ヒラリー・ハーンのリサイタルを西宮で聴いた(1月12日、兵庫県立芸術文化センター大ホール) 。実はハーンの実演を聴くのはこれが初めて。チケットをとったのに仕事で行けなくなってしまったり、仕事が忙しい時期の来日だったりして、これまでの来日公演をすべて見逃してしまっていた。それだけに、今回は無事に行くことができて嬉しい。何といっても現在人気・実力ともに最高のヴァイオリニストのひとりである。会場は満席。他のヴァイオリニストのリサイタルに比べて、ヴァイオリンのおけいこをしていると思しき親子連れの姿が多いように思う。やっぱりハーンがスズキ・メソッド出身だからだろうか。

イザイ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第4番 ホ短調 Op.27-4
アイヴズ:ヴァイオリン・ソナタ第4番「キャンプの集いの子供の日」
ブラームス(ヨアヒム編):ハンガリー舞曲集より(第10番ホ長調/第11番イ短調/第12番ニ単調/第19番ロ短調/第5番嬰ヘ短調/第20番ホ短調/第21番ホ短調)
アイヴズ:ヴァイオリン・ソナタ第2番

イザイ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第6番 ホ短調 Op.27-6
イザイ:子供の夢 Op.14
アイヴズ:ヴァイオリン・ソナタ第1番
バルトーク(セーケイ編):ルーマニア民族舞曲

ピアノ:ヴァレンティーナ・リシッツァ

まず冒頭のイザイからその輝かしい音色に惹きつけられる。ブリリアントであるだけでなく、ビロードのように繊細で豊かな響き。運弓に全く無駄がないのも驚いた。弓への力のかけ方にバランスがとれているため、弓が弦にぴったりと貼りついている感じで、発音が安定している。そして右手の正確なこと。どんなに早いパッセージでも乱れることがない。重音も完璧でクリアー。素晴らしい。

今回のプログラムの中心はやはりアイヴズだろう。一般聴衆にあまり好まれるとも思えないアイヴズのソナタを、ひとつのプログラムの中で3曲も演奏するのは、よほどの思い入れがあると考えられる。その演奏の印象を一言で言うならば、「とにかく美しい」ということになるだろうか。これは彼女の最新録音であるシェーンベルクの協奏曲を聴いたときにも感じたことだ。その音色の輝かしさと端正な造形によって、まったく耳障りなところのない、耽美的ともいえるシェーンベルクになっていた。これは、ハーンがシェーンベルクを後期ロマン派の延長線上にとらえた、というのとはちょっと違うように思う。むしろハーンが独自に音楽的に理解し、噛み砕いた世界という感覚だ。今回のアイヴズもまったく同じで、しばしば印象派(ドビュッシー、あるいはより近いのはシマノフスキ)のソナタを聴いているような思いにとらわれた。これだけリッチな響きで演奏されるアイヴズを聴いたことがない。そして、ひとつひとつのフレーズにちゃんと意味をもたせてくれるので本当に聴きやすい。アイヴズの作品の中に出てくる数多くの断片的な引用を、実にわかりやすく響かせてくれる。そして最もシリアスな(それゆえに最も演奏されることの少ない)1番のソナタでは、深い祈りの感情を込めた部分が深く心に刻まれた。逆に、アイヴズの魅力の一つである「苦味」の印象は後退したところもあるが、これはハーンの選択の結果なのだろう。

ハンガリー舞曲集、イザイのソナタ6番(ハバネラのリズムが出てくるところの色彩感が素晴らしかった)も充実した演奏。ルーマニア民族舞曲は、技術的な完璧さという点では以前聴いた庄司紗矢香の方がわずかに勝っているという気がしたが(重音のバランスなど)、もちろん非の打ちどころはない。最初のアンコールはパガニーニのカンタービレ、2回目のアンコールはハンガリー舞曲集の第5番。

全体的に振り返ると、完璧な技術に支えられた実に端正な演奏だと思う。音色の豊かさがその魅力を倍増している。ステージならではの表現の勢いや、そこから生まれる危うさの面白さというのはほとんど感じられないが、これだけの音楽を聴くとそれを短所と感じることもない。やはり現在最高のヴァイオリニストのひとりであり、同時代にこの演奏家を聴くことができて本当に幸せだ。終演後、列をなした何百人ものファンへのサイン会が開催。それを笑顔できっちりとこなすところにもプロフェッショナルを感じる。天才少女と呼ばれたハーンも今年で30歳。やっと聴けた・・・。

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