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車到山前必有路

あの戦争から遠く離れて―私につながる歴史をたどる旅
城戸久枝「あの戦争から遠く離れて」情報センター出版局

著者の父は中国残留孤児。まだ日中国交回復前の1970年というとても早い時期に、文化大革命さなかの中国から命がけで日本に帰国した。自らの父が辿った数奇な運命を、10年の歳月をかけて調査しまとめあげた大変な力作だ。

前半が父の半生の物語。混乱の中で実の父母と別れ、運命のつながりで中国の養父母にもらわれ、農村の貧困の中で苦労しながらも自分が日本人であるという意識を高めていく。戦後の中国の政治的社会的混乱をかいくぐりながら、自力で必死に帰国の道を探り、奇跡的に帰国に成功する。これはすぐに映画化されてもおかしくない、まさに事実は小説より奇なり、というドラマチックな物語だ。後半は、この本を書き上げるに至るまで、中国という国とそこに生きる人々に向き合ってきた著者の青春の旅路。自らにつながる歴史を探っていく中で、日本の若い世代のひとりとして現代の中国を見つめる著者の姿は、父の物語にも劣らず感動的だ。

日本と中国との間の過去の戦争や現代の関係は、著者にとっては決して単なる歴史上の、あるいは時事的なトピックなのではなく、自らの存在そのものに直接的に関わっていることだ。これだけ熱のある(しかし決して感情過多に陥ることのない、とても冷静な)文章は、自分の根っこに深く関わっていることについてでなければ書き得ない。頭ではなく心で書いているということが読み手に深く伝わってくる。

日本と中国の関係に向ける著者のまなざしは、とても信頼できるものだと感じる。これからも中国と日本をテーマにしたノンフィクションを書き続けていってほしい。「車到山前必有路」、いい言葉です。

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