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夏から冬へ

Country Mouse City House
Country Mouse, City House / Josh Rouse

個人的に偏愛しているシンガー・ソングライター、ジョシュ・ロウズの新作(フル・アルバムとしては7枚目)。前作「Subtitulo」と同じくスペインの Puerto de Santa Maria にある Paco Loco Studio でのレコーディングということで、前作と対をなすアルバムと考えることができる。「『夏』レコード(Subtitulo)を作った後で、もっと『冬』の感じのものを作りたいと思ったんだ」とジョシュ自身が語っていることからも、この2作の対応関係を指摘することができるだろう。

本来、ジョシュはメランコリーの感覚が魅力的な人だ。彼の歌からは、灰色の雲に覆われた空や人気の少ないくすんだ色の町、そしてひとりきりで過ごす夜の孤独感が伝わってくる。その点で、前作はこれまでのジョシュとはちょっと違った作風のように感じられ、「あれっ?」と思ったものだ。いつも通り感傷的ではあるのだが、どこか温かく、曲によってはとても開放的な幸福感すら漂ってくる。言われてみれば、確かに「Subtitulo」は白い漆喰の壁に照りつける強い陽射しや物憂げな午後の空気、そして終わりへの予感-夏の美しさはそれがすぐに過ぎ去ってしまうという感覚と切り離すことができない-に満ち溢れている。初めて聴いたときにはそこまで感じ取ることができなかったが、スペインでのレコーディング、そして新しいスペイン人の恋人 Paz Suay の存在がこの変化をもたらしたのだろうということは想像していた。

その意味で、今作は従来のジョシュの持ち味に立ち返ったアルバムということができる。「死、孤独、自然、宗教、夢といったテーマがある」と彼自身は語っているが、淡い幸福感に包まれながら現実の孤独を遠くから見つめているような感覚がここにはある。アルバム冒頭、ふわふわしたノスタルジックなメロトロンの響きで始まる「Sweetie」は素敵なラヴ・ソングだが、その幸福感はどこか宙に浮いたままで、悲しみの予兆を隠すことはできない。低いトーンで歌われるソウルっぽい「Italian Dry Ice」に続いて、いかにもジョシュらしい弾けるようなポップ・チューン「Hollywood Bass Player」が流れ出す・・・。この冒頭3曲の流れが前作と共通していることも、「Subitulo」と本作が対応関係にあることを示しているだろう。前作には「Givin' It Up」というこれまでにはないタイプの曲が入っていて驚きだったが、今作でそれに相当するのはジャズィーな「Pilgrim」。Brad Jones の弾くフェンダー・ローズがいい(なお、彼は今回はプロデュースから外れている)。そしてアルバムの最後を飾るのはその名も「Snowy」というメロウな傑作。まさに「冬」のアルバムだ。

前作では随所に配されたストリングスが隠し味だったが、今作ではスペインのミュージシャンによるブラス・セクションが効いている。そのためか、このアルバムを「カントリー・ソウル」と形容する評をどこかで読んだのだが、私としてはそういうジャンル分けはあまり好まない。確かにジョシュにはルーツ・ミュージックを多少意識したようなところもあるが、基本的には60年代/70年代のシンガー・ソングライターのウォームな手触りを愛する人だ。ブラス・セクションのアレンジはソウル的にもジャズ的にもポップス的にも扱われている。ジョシュの巧みなソングライティングの技と、どうにも癖になる歌声を堪能しているうちにあっという間に38分が経ってしまう(人間の生理に合ったLPサイズの収録時間も相変わらず)。ひたすら優秀なポップ・アルバムだ。

少し前に出た Paz Suay とのプロジェクトEP「She's Spanish, I'm American」も大傑作だったが(私の今夏のサウンドトラックだった)、今作は秋から冬に向かうシーズンにふさわしい。ジョシュも言っている-「7月に出るってことはわかってるけど、みんながこのアルバムを見つける頃にはもう秋だからね」。

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