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パウル・クレー 絵画のたくらみ

パウル・クレー 絵画のたくらみ

クレーについて何かを語ろうとするのはとても難しい、と感じています。生涯をたどってみたところで、彼の作品について何がわかるわけでもない。作品の中に入りこんでいっても、まったく過不足のない完璧に美しい世界が広がっているため、あらゆるコメントはすべて蛇足に思えてしまう。画面やタイトルの謎めいた言葉や記号の秘密に迫ろうとしても、それが彼のアートの本質に一向に届かないもどかしさを感じてしまいます。あらゆる意味づけからするりと抜け出てしまう作品の数々は、やはり音楽との共通性を感じさせるのですが、それでも見る人に何かを語らせずにはいられないある力が備わっているように思います。そして、語るのが難しいと感じているだけに、近年のクレーの安易な語られ方-「忘れっぽい天使」をその象徴とするような-には強い違和感を覚えてしまうのです。印象派の次に位置する「良い趣味」のアーティストとしてクレーを消費してしまって良いものでしょうか。この本には、そんな私の問題意識と重なるところがありました。

架空の質問者の問いに、前田富士男さんと宮下誠さんが答えていく形式はとても読みやすいものですが、その内容はこれまでのクレー論とはちょっと違った視点に満ち溢れています。クレーをクレーにしたのはチュニジア旅行ではなく、ベルン郊外オスタームンディゲンの石切場だ。作品にはいくつものトラップが仕掛けられており、画面の「意味」ではなくその生成と崩壊の「過程」をこそ示している。公開する日記やノートには自己演出を欠かさないなかなかの策士である・・・。クレーの作品が、間口は広いけれども実に奥行きの深い、そしてありきたりの読解など通用しない「たくらみ」に満ちた迷宮であることを次々と指摘していきます。私はクレーの作品を実際に見たとき、実によく考えられた画材や支持体の選択にいつも魅了されてしまうのですが、この本でもその点がいくつかとりあげられており、興味深く読みました(新聞紙の使用や、布のほつれや石膏が意味すること)。戦略的に多義性を装うクレーの作品の本質に、新鮮な視点からしっかりと迫っていこうとする意図が強く感じられます。

本の最後にはクレーを訪ねる旅ガイド。確かにパウル・クレー・センターができたのだから、スイス各地にクレーを訪ねる旅というのも悪くないかもしれません。いつのことになるのやら、まったくわかりませんが・・・。

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受信: 2007年6月 9日 (土) 15時18分

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